日本産業社会の「神話」

日本産業社会の「神話」―経済自虐史観をただす

日本産業社会の「神話」―経済自虐史観をただす

アニメ見たり,アニソン聞いたりしてるだけではなく,本も読んでいます。
日本経済の発展に大きな役割を果たしたと考えられている,日本,または日本社会が持つ「集団主義」「会社人間」「長時間労働」「政府主導」という特徴を著者は迷信だとし,実はまったく逆の民族,国だと書く。
日本の会社・役所は個人間の競争が激しく,査定も厳しい。また,社員の多くは仕事も会社も好きではなく,そんなだから当然長時間働くなんて論外。なるほど,個人的な経験からなんとなくそんな気がしますね。まあ,ちょっと違うと感じるのは長時間労働か。残業代が出るかぎりは不必要に会社にいる人はいるなあ。とまあ,主観的にもなんとなくしっくりくるわけだが,この本はそれを客観的に示してくれる。そもそも,どこと比べて競争が少ないのか,会社を好きな人が多いのか,労働時間が長いのか,というのがはっきりしていないとこの手の議論には意味がない。もちろん,この場合の比較対象は外国であるのは明らかだが,上記のようなことを言う人は比較対象である外国の調査をしっかりしているのかと著者は問う。まあ,簡単に言うと,『ヘタリア』的なイメージに基づいた考えなんじゃね?というわけだ。著者はその辺しっかりした調査を引用し,今まで言われてきた日本経済発展の要因の多くは迷信であり,神話と説く。
ちなみに「政府主導」の方だが,「Σプロジェクト」の例を見るまでもなく失敗に終わった国家プロジェクトは数知れず。というわけで,今や信じている人も多くはないと思う。ただ,明治時代となると話が違ってくるのではないか。明治維新後,日本が急速に産業化した背景には官営工場が果たした役割が大きかったとなんとなく思ってる人は少なくないのでは。しかし,本書によると,紡績産業で最も成功したのは民営の大阪紡(現在の東洋紡)であり,官営工場はすべて失敗だったとのこと。結局,民間でできることは民間でやったほうが効率が良いということか。
彼を知り己を知るのがいかに難しいかを教えてくれた一冊であった。